脳の階層構造的発生成長成熟

脳と心(情報)の並行する発達順序

まとめ(あとがき) 階層構造

00)まとめ(あとがき)
受信装置としての脳について、三つの章にわたって述べてきた。だが、発信装置としての身体構造、身体機能についてはあまり述べていない。これは、この本の目的が、脳と脳の機能、脳の歴史的変化にあったからではある。
であっても、生物が進化する上で、環境からの情報収集がどれほど重大な課題であったかに圧倒される思いである。
環境にある情報を五感で捉えることが、そして更には、その情報を如何に加工処理するかが、生存競争において決定的重要事項である、という事情が、脳の進化をこれほどまでに促した、ということが、今回この本を書いてみてしみじみと実感した。

知の階層構造として、
(1)各種の感覚器官から流入する「感覚情報」
(2)それら感覚情報を束ねて、一つの判断(行動化決定)を下す「感情」
(3)各種感覚情報を客観性のある社会化された「知性」
(4)それら知性を束ねて行為(意志)化される「精神」、理性

それらと対応する脳部位の階層構造
(1)感覚情報の中枢である「視床」(脳幹の最上階の間脳)
(2)感情の中枢である「扁桃体」(大脳辺縁系)
感情は、個人(一生物)にとって最良最善最適であるとして下される判断である。欲求階層第一階層(生理的欲求)と第二階層(安全の欲求)
(3)知性の中枢である「大脳新皮質後部」(後頭葉、側頭葉、頭頂葉)
感情は個人性を旨とするが、社会生活を重視する生物としては、客観(社会)性を旨とする知性を知とするべきである。
(4)精神、理性の中枢である「大脳新皮質前部」(前頭葉)
知性を基にして、社会人として最良最善最適であるとして下される判断が、精神であり、理性である。

欲求階層説の第三階層(社会的欲求/所属と愛の欲求)、
第四階層(承認(尊重)の欲求)、
第五階層(自己実現の欲求)
社会で生きる者として、階層を登って行く。それを踏まえて、今思うことは、これほどまでに受信装置としての脳が進化をしたのだから、この受信装置としての脳を使って、どのような発信をして行くかが、人間に課された課題である、ということである。
その前に、今を生きる私達は、ビッグバンから始まった宇宙創成以来、まさにこの瞬間まで、延々と紡がれ続けた歴史を全て受け取る立場にある。それを思う存分に享受しながら、人生を楽しみましょう。
そして人生の後半になって皆さんは次の世代に何を手渡しますか。

第四章 運動(行動)の発達と階層性 12)運動の発達 運動の構造と機能 12-5-1)機能分化

運動の構造と機能
12-5-1)機能分化
手の指が1本1本独立して動き、物をつかむ、という運動は、ヒトやニホンザルなどの霊長類だけが持つ、きわめて高次な運動機能である。哺乳類の動物であっても、手と足の機能分化が進んでいなければ、このように手指を使うことができない。進化の一側面は、この機能分化の進展度に現れる。
12-5-2)運動ができないのレベル
運動ができないレベルには、様々な段階がある。
(1)運動するための構造(ハードウェア)がそもそも備わっていない場合。例えば、犬や猫では、手に五本の指が揃っていても、親指が他の指と向かい合う形に動かなければ物をつかめない。犬では、物をつかむことは構造的に不可能である。それを主に口が実行する。
(2)ところが、運動を実行できる構造(例えば、物を掴める指)を持っていても、必要な脳部位との配線(軸索と樹状突起とのシナプス形成)と配線の被膜化(髄鞘化)が完了していない場合にはできない。つかむという行動は、様々な構造(筋肉や指など)とそれに対して指示を出す脳部位との連携が必要不可欠である。
つまり、それらを配線で連結する過程を踏まなければ実行され得ない。配線作業は、軸索が目的地(中継地や筋肉)まで伸びて、対象の神経細胞シナプス形成することで前段階は終了し、その後髄鞘化を待たなければならない。
(3)そのようにして配線と髄鞘化が完了しても、更にそれを実行させる機能(ソフトウェア)がなければ、運動を実行できない。この場合には、素材(プログラム言語)は個々の神経細胞であり、経験を積むことで素材を複雑に組み合わせる(神経回路を形成する)ことで、ソフトウェア(手順プログラム)を完成させる。ソフトウェアを完成させる実行器官は、主に小脳(運動プログラム貯蔵庫)である。
これら全て(構造、配線、髄鞘化、脳内神経回路形成)が揃って始めて運動が可能となる。

第四章 運動(行動)の発達と階層性 12)運動の発達 意識的行動の指示経路

意識的行動の指示経路
12-4)大脳新皮質前頭前野が運動をイメージ(脳内リハーサル、シミュレーション)すると、大脳新皮質前頭葉運動野が企画して、小脳(運動プログラム)が細かい動きを提示し、大脳基底核(中間管理職)が実行部隊に指示を出して、脊髄や脳幹が筋肉に指示を下す。
更に詳しく解説すると、前頭前野が、運動を意図すると、それが補足運動野と運動前野に送られ、身体に関する感覚情報が頭頂連合野から送られて来て、一次運動野に運動プログラムの指令が出され、細かいパターン運動指示が出る。運動が開始されると、筋肉からの感覚情報が脊髄を介して小脳にフィードバックされて、調整される。
運動野について補足すると、役割が分担されていて、例えば、運動前野は、頭頂連合野の後方から視覚と体性感覚の情報を、側頭連合野から視覚と聴覚の情報を受け取る。これらの感覚情報を頼りとして運動を実行する。それに対して、補足運動野は、大脳辺縁系とのつながりも強く、記憶にもとづいて順序正しく運動する際に働く。
注)背側運動前野は、規則に従って動く物体をモニターする。これは、ミラーニューロンと同じ機能である。

第四章 運動(行動)の発達と階層性 12)運動の発達 生得的無意識的反射的運動 12-3-1)リズム的パターン発生機構

生得的無意識的反射的運動
12-3-1)リズム的パターン発生機構
母体内の胎児の段階から、手足を屈伸させたり、ばたつかせたりする。これらは、生まれつき備わっている生得的な運動で、無意識的反射的自動的運動である。
これらを実現実行するのは脊髄や脳幹である。両者には、様々な反射的なリズム的パターン発生機構が存在する。例えば、延髄には呼吸リズム、脊髄には歩行リズムを発生させるパターン発生機構が存在する。これは、単純なパターン(型)をリズム(周期的な反復)として組み合わせる、持続的な運動パターンである。
脊髄や脳幹段階の無意識の(反射的)行動は、単純な動作である。が、小脳段階の無意識の行動は、極めて複雑な技巧的な動作も可能である。例えば、ピアノ演奏など。この小脳を土台として、大脳新皮質からの随意運動(学習された運動)が積み上げられる。
12-3-2)小脳による自動修正
意識が関与しない、潜在的に知覚された情報は、本人が随意的には制御できない無意識的な自動的反応を引き起こす。例えば、意識にのぼらない視覚情報によって、小脳による運動反応のプログラムが自動的に修正される。
12-3-3)危険性のレベル別対応
別の例を挙がれば、熱いものに触れた手を瞬間的に引っ込める場合は、手を引っ込める運動は、熱いと感じて危険を察知するよりも前に開始されている。そして、その後に熱さを感じる。
これを脳的に言えば、危険を感じないレベルであれば、皮膚での触感覚が大脳新皮質感覚野(頭頂葉)に到達した後、そこから随意(前頭葉運動野)で行動指令が出されて骨格筋(脊髄)が反応する。つまり、脳(大脳新皮質)がちょっと熱いから、手を引っ込めようと判断して行われた意識的行動である。
しかし、驚くほどの熱さ(この熱さレベルは経験によって引き上げることは可能)であれば、皮膚からの感覚情報が脊髄に到達した段階で、直接筋肉に生得的反射行動をさせる。勿論感覚情報は、同時に大脳新皮質にも送られるので、大脳新皮質が遅れて熱さを体感する。

第四章 運動(行動)の発達と階層性 12)運動の発達 運動の階層性 12-2-1)視線の転換

運動の階層性
12-2-1)視線の転換
脳幹の中脳の上丘は、視線を対象に反射的に向ける機能がある。この反射的行為を抑えるのは難しい。がしかし、不可能ではない。意識的に訓練をすると、この反射的に視線を向ける行動を抑えられる。この行為を抑えるのは、前頭前野にある前頭眼野(前頭前野背外側部)である。前頭眼野は、随意(トップダウン)的に視線を移動させる働きをする。
つまり、視線に関しては、脳幹中脳の上丘が、無意識的反射的視線移動を受け持ち、前頭眼野(前頭前野背外側部)が、随意的視線移動に関わる。
12-2-2)姿勢制御の階層性
運動の階層性を姿勢制御を例にとって、下位階層から最高階層へと述べる。
(1)底辺(第一階層)は脊髄反射
「脊髄」が抗重力筋を制御する。抗重力筋は、地球の重力に対して姿勢を保つために働く筋肉である。 脚、腹部、臀部、胸部、背部、首など身体の前後上下に張り巡らされ、伸び縮みをして崩れないように平衡を維持する。単に 立っているだけ、あるいは座っているだけでも、常に抗重力筋が絶え間なく忙しく働く。これら個々の筋肉群を調整する脊髄を更に上位から統合調整するのは、脳幹中脳である。
(2)第二階層は内耳の前庭反射。
感覚器官の中で最も早く構築されるのが、平衡感覚を司る、内耳の前庭器官内「三半規管」である。胎児期の2ヶ月目頃には形が完成し機能し始める。生後6ヶ月頃には完全に完成する。
内耳器官による自動調節反射(前庭反射)は、傾きを検知して「頭の動きと目の動きとを連動連携」させて姿勢を垂直に保つ働きをする。この階層からは、小脳も加わって調節する。
(3)第三階層は視覚。
この場合、大脳新皮質視覚野(視覚情報)、頭頂連合野(身体図式)、運動野(運動指令)などから構成される。視覚によって得られた情報を主体にして姿勢を制御する。
つまり、第一階層の筋肉などの末梢神経(受発信)情報の上に、第二階層の頭部の内耳の平衡感覚器官からの(平衡感覚)情報を積み上げ、更に第三階層の視覚からの(視覚)情報を加えて、頭頂連合野に全情報を集約して、更に周囲の状況などを鑑みて、運動野が随意的に指示を出すことで重層的に姿勢制御をこなす。
(4)運動専門部門の小脳。
「小脳」は脳内の運動専門に扱う特別職である。慣れた運動であれば、通常は随意の運動野ではなく、無意識の小脳が主導権をとって実行する。
(5)大脳新皮質運動野
であっても、大脳新皮質の運動野と前頭前野によって、自分の意志で、随意に、姿勢を変えていく。この段階は、しようという意図と意志を示せば、後は下位の階層が次々に下の階層へと指令を出して行くこととなる。
運動野の中でも、特に補足運動野が、自発的に運動を開始する場合に働く。

第四章 運動(行動)の発達と階層性 12)運動の発達

第四章 運動(行動)の発達と階層性
12)運動の発達
12-0)このセクション(節)では
今まで、脳の階層性と、知の階層性を解説して来たが、ここでは、運動、行動、反射行動の階層性について解説して行きたい。とは言っても、既に、随所で、言及して来たので、まとめとして、見ていって欲しい。
と言うことで、予め、運動に関わる脳部位を示しておきたい。運動に関わる脳部位など。
1)大脳新皮質前頭葉運動野、2)(大脳辺縁系)側坐核(大脳基底核)、3)脳幹、4)小脳、5)脊髄、6)運動神経、7)筋肉。
階層構造全般に言えることなのだが、基本的には、上位階層に登るほど、守備範囲が広い。
12-1)前頭葉運動野(脳部位)
意志で動かす随意運動をした結果のフィードバック情報(発信源への報告)の流れを示すと、
受信経路:筋肉⇒脊髄、脳幹⇒前頭葉一次運動野⇒前頭葉運動連合野(高次運動野)⇒前頭連合野
運動野は、随意運動をする場合の発信に関わるので、前頭葉(前頭葉運動野)に属す。普遍的に、脳では、下位の階層ほど先天的に構築されるが、高次の階層に上れば上るほど後天的に学習(経験)によって獲得される。勿論生得性はゼロではなく基礎は形成される。
高次運動野は、運動の実行自体ではなく、周りの状況やその時の文脈を考慮しながら、運動の中身を選択、準備、切り替え、複数の運動の組み合わせなどに関して管理職的な関与をする。つまり、運動を目的を持って広い視野から状況適応的に発信させる役目を担う。
注)高次運動野は、スポーツ大会で例えれば、選手ではなく、選手がスムーズに競技できるように取り計らう運営者側に属す。
高次運動野は、大脳新皮質連合野から状況情報や途中経過状況など広汎に入力を受ける。他方、大脳基底核と小脳からも、運動の組み立て、構成や、調節に必要なフィードバック情報を受けている。
要するに、高次運動野は、随意運動発信と調節のための情報入力と、運動情報出力の橋渡しをする、総合司令部として働く。つまり、前頭前野は、目標を定め、それを具体化する企画を作成する。それを受けて、高次運動野は、具体的運動へと落とし込む。

第三章:情報(知)の発達と階層性 11)精神、性格、意志、注意、理性 11-8-3)言葉の限界  

11-8-3)言葉の限界
人間は、感覚情報を受け取る。そして、それを知性情報として言葉化している。しかし、感覚情報と言葉化した知性情報との間には、なんら必然性はない。それらは恣意的な結び付きでしかない。だのに、人間は余りにも言葉に頼り過ぎる。そろそろ、私達人間は言葉から脱皮(超越)するべきである。人間世界の中で生きる時代は終わろうとしている。だが、感覚情報を言葉化しないでそのまま高度な知性情報として提供するのが、芸術である。
とにかく言えることは、宇宙を体系化するためには、言葉を捨てなければならない。宗教だけが真に宇宙を体系化することができるのだから。
私には実体験がないのでわからないが、言葉を超越した結果降り立った階層(第五階層)に住まう人々の言葉が、(仏教の)法、縁起、道(タオ)、自然法爾(じねんほうに)、悟り、あるがまま、などではないだろうか。
ということで、宗教>哲学>科学、である。だけれども、私は、教義(言葉による教え)に頼る宗派宗教に馴染めない。
11-8-4)知性の精神化
知性を精神化する。知性を精神化するとは、知性を一つに体系化することである。心の中に溜め込んだ情報を統合統一することである。
知性を意志化する。知性を意志化するとは、統合統一体系化された精神を行動で実現することである。つまり、知行合一化することである。
感覚情報を一つにまとめて感情化する脳部位は、扁桃体であった。その扁桃体は、感情を行動化する行動駆動装置を持っていた。それは、身体内に向けては視床下部であった。身体外部に向けての行動化は大脳基底核と脳幹である。やはり感情(扁桃体)よりも下位階層にある視床下部大脳基底核、脳幹が身体の活性化装置であった。
感情が、様々な感覚情報を一つにまとめあげる要の役割を果たしたが、知性を一つにまとめて精神化させる役割は、前頭前野が担う。
前頭前野は、最高階層にあって、トップダウン型指示を出す。知性によって計画を立て、目標を定める。前頭前野が、計画と目標を定めるに当たって、知識を総動員するために、目指す知識を探す手段が、狙いを定めるトップダウン型注意機能である。その注意機能は帯状回前部が担う。更にそれを行動へと差し向けるのは、大脳基底核側坐核である。
感情を行動化へと駆動する装置は、感情化する部分は扁桃体が受け持ち、行動化する部分を視床下部が受け持った。知性を精神化へと駆動する装置は、知性的部分を前頭前野が受け持ち、積極性を生み出す帯状回前部と更にそれを行動化する部分を受け持つのが側坐核であった。
実行機能を持たない知性はひ弱な紳士である。知性を持たない実行機能は野蛮である。

第三章:情報(知)の発達と階層性 11)精神、性格、意志、注意、理性 11-7)知の行動化(知行合一)

11-7)知の行動化(知行合一)
(1)「前頭前野」が目標(計画)を作成して、
(2)やるぞというGOサイン(意欲)が出た時点で、積極性に踏み出す「帯状回前部」が前向きになって
(3)その目標が好きな事柄かどうかを大脳辺縁系扁桃体」が判断して、扁桃体もGOサインを出し
その判断が前部帯状回を経由して前頭前野にフィードバック情報を送り返し、そこでその判断をも統合された決定情報が、再度、前部帯状回を経由して扁桃体に伝える。
(4)同時に報酬(良い結果)を意識した(腹側線状体)「側坐核」も活性され、良い結果が出そうだと予期して行動化へと打って出る決定が
(5)知を行動化する「大脳基底核」に伝わり大脳基底核が作動する。同時に「視床下部」(身体機能の活性化)も戦闘モードに入る。
(6)かくて、大脳基底核の下位階層である「脳幹と脊髄」が、筋肉などの実行部隊に指令を出す。
だが、「分かっちゃいるけど、やめられない」という知行合一ができないのが世の常である。分かっちゃいるのは、大脳新皮質後部(言語的理解)であるが、やめられないのは、扁桃体(感情的判断)である。つまり、前頭前野(トップダウン司令部)が、自己内のあらゆる機能を完全掌握できていないで、下位機能(主に扁桃体)が、勝手(ボトムアップ)に行動化している姿である。

知性の精神化
11-8-1)政治
大脳新皮質は、前部と後部に分けられる。前部(前頭葉)の内、前頭前野は、未来を見定めて、計画を立てる部位であり、それを実行する部位(運動野)がその後ろに位置する。後部は、情報を集めて、分析した上で再統合し、高次の情報に高める。
それを政治世界に当てはめると、大脳新皮質前部(前頭葉)は、国会であり、大脳新皮質後部(後頭葉、側頭葉、頭頂葉)は、官僚(機構)である。その内で、前頭前野と運動野は、国会と行政機関である内閣府である。
つまり、政治とは、知性を精神化して、それを具現化することである。
11-8-2)哲学と宗教と科学
知性を精神化するとは、哲学することである。哲学するとは、あらゆる知を集めて、それを一つに体系化することである。体系化して、その主題を提示することである。本質とは、そういうことである。
哲学に関しては、デカルトは、「我思う故に我あり」を大前提として、哲学の出発点(中心核)とした。思うとは、言葉を整理して(論理)体系化することである。つまり、宇宙を言葉で秩序づける作業である。故に、科学するとは、哲学をすることである。異なる点は、根拠を提示するのが科学であり、言葉の整合性を取るのが哲学である。
デカルトは、我思うとして、哲学をしたが、仏教は、「我思わず、故に我無し」を、宗教の出発点とした。
思うとは、二つの要素がある。一つは、言葉の使用である。現象には切れ目がないが、言葉は、そのようなアナログの現象を、無理矢理デジタル化する。故に、言葉は、現象を正確に表現し切れない。もう一つは、思うとは積極的能動的行為である。その二つを止めることによって、宗教が始まる。
言葉は、人間だけのものである。しかし、宇宙は、人間だけのものではない。だから、哲学(言葉による体系化)では、更には科学だけでは、宇宙を体系化することはではない。

第三章:情報(知)の発達と階層性 11)精神、性格、意志、注意、理性 意志と願望

意志と願望
11-6-1)意志とは
意志とは、自分の心を、自覚的に、能動的に、制御しながら一定方向へ向け続ける心の働きである。長期的継続的トップダウン注意は志向性を持った意志と言える。つまり、意志とは、志向性を持った継続的注意である。
前頭前野は、意識的に、随意に即ち、トップダウン的に取捨選択出来る脳部位である。つまり、前頭前野が意志の出処だと感じる。時々にボトムアップして来るあらゆるものを抑制する機能を持ち、トップダウン注意を目的と定めた方向に向け続けることが意志である。それを支えるのが、帯状回である。
11-6-2)願望と期待
願望や期待は、実現を望む(計画を生み出す前頭前野)段階に留まるのだが、意志(積極性を生み出す帯状回前部と連動して)は自己の行動によって実現を目指す。意志が強いとか弱いとかの違いは、「一定方向へ向け続ける」という選択をし続けるかどうかである。前頭葉は、企画する前頭前野と実行に移す運動野で構成されている。願望は、前頭前野だけを働かせるが、意志は、前頭前野と運動野が強く連携して突き進む。
11-6-3)意欲の出所
しかし、運動野だけでは突き進み続ける強さは生まれない。行動の開始、つまり、はじめの一歩を踏み出すやる気の脳内は、運動制御や報酬を計算する大脳基底核(線条体ドパミン神経)がやはり重要である。大脳基底核は、報酬(精神的喜びも勿論含まれる)を求めて行動に乗り出すスイッチ係である。
やる気や意欲の中核をなす線条体(知性を行動化する中継地)は、脳の奥に位置する大脳基底核の一部で、運動の開始、持続、制御に関わっている。線条体が活性化することによって意欲的に行動ができる。感情を行動化する起爆剤視床下部であったが、精神を行動化する起爆剤は、大脳基底核系である。
11-6-4)(物質的、精神的)報酬を目指して行動化
では、何を最優先とする報酬と見なすかである。目標の達成を繰り返し経験して物質的精神的報酬を得られた際の喜びや快感の記憶を持っていれば、その記憶を思い浮かべることだけで、頑張ればこれが得られると意識すれば、やる気が上がる。
脳内では、目標を持ち、その目標達成時に得られる報酬を過去の経験から意識したとき、つまり報酬を意識しただけでドーパミンが分泌される。
具体的には、脳内の側坐核という領域が刺激されるとドーパミンが放出される。報酬が喜びや快感などの情動的なものであっても、行動を選択するに際して、ドーパミン神経系は、報酬についての判断材料を提供する機能(中心的役割を担っているのは中脳の腹側被蓋野線条体側坐核)の役割を果たす。
つまり、選択された行動が本人にとって有利であると推測した場合には、それが何であろうとも、ドーパミン神経系が発信して、その行動をプラス評価して扁桃体に記憶させる。
だがしかし、ドーパミンは、現状維持を嫌うので、報酬の階層を引き上げて行くことが不可欠である。側坐核は、予期せぬ報酬(「上手く行ったら特別手当出すぞ!」)が与えられた時に、予期された報酬(「またこれか!」)が与られた時よりも高い活性を示す。
逆から言えば、ドーパミン(快感)を浴びることが目的に成ってしまうと、報酬を引き上げ続けなければ、ドーパミンは止まってしまう。
注)前頭前野の腹側部の、より後ろの部位は食べ物、飲み物などの具体的な報酬処理に関して、より前の部位はお金や名声などのより抽象性の高い報酬処理に関して活性化する。
注)前頭前野腹内側部は、短期的視点からではなく、長期的視点から見ての報酬(良い結果)に注目する。

第三章:情報(知)の発達と階層性 11)精神、性格、意志、注意、理性 好奇心、意欲、動機 11-5-1)興味(関心)、好奇心

好奇心、意欲、動機
11-5-1)興味(関心)、好奇心
注意や興味(関心)に関わる脳部位は、前頭前野や頭頂連合野にある。ここから帯状回前部(インターフェイス機能)を介して注意(関心など)のトップダウン指令が、下位の感覚系領域(視床など)に送られる。その結果返って来る諸々のボトムアップ感覚情報を、注意部位が、今現在の目的(目標)に従って選び取る。
つまり、興味(関心)、好奇心が、注意の方向を決めるといっても構わないだろう。
注)私の妻が妊娠した時には、町を歩いても、電車に乗っていても、妊婦さんがやたらと目に付いた。今年は出産ラッシュなのかなと不思議に思えた。が、妻が出産した後では、町でも電車内でも妊婦さんを滅多に見かけなくなった。
対象に心が向く主体的な行動(好奇心、興味、意欲、注意など)は、随意なので注意の集中を要求する。注意の集中は、大脳新皮質の覚醒水準を高める。覚醒水準は、脳幹網様体から来る感覚情報を通じて大脳新皮質を刺激して活性化させる。かくて、好奇心から始まる知の好循環が生まれる。
11-5-2)好奇心は新規性を求める
だが、例えば、練習によって自動的にできるようになる内容だと、あるいは新規性(目新しさ)がなくなる事柄だと、高次領野(主に前頭前野)の活動は消え、小脳が中心となり感覚野と運動野の活動だけが残り習慣化する。かくて、好奇心、意欲の出番はなくなり、新たな獲物を求めることとなる。このようにして、おさな子達は、飽きたら新しいおもちゃを求め続ける。だが、これは心(脳、特に前頭前野)が育ちつつあることを意味する。
11-5-3)内発的動機づけ
動物(人を含めて)が行動を起こす場合、その動物には何らかの動機づけが働く。動機づけは、動物の行動の原因であり、そこには行動の方向性を定める要因と行動の程度を定める要因とが含まれている。
動機付けの内で、内発的動機づけとは、外から与えられる報酬ではなく、心の内部から沸き上がる好奇心や関心や欲求によってもたらされる動機づけである。
そのような内発的動機づけから動く条件は、
1)(知的)好奇心を持ち、
2)自分が中心(主体性を持って)となって、自分で課題を設定して、自発的に考え出し、問題解決しようとするという、自律性を発揮する気持ち(感情)そのものが、動機付けになる。
3)更に、それによって解決がもたらされると「自己有能感」「充実感」「達成感」などが得られる。これらは精神的喜びである。これは十分に大きな報酬になり得る。
つまり、自身の周りの環境(人や物や出来事など)に対して能動的に働きかけ、環境を自分自身の力で変化させた時に喜びや満足を感じる。この喜びや満足感を有能感と呼ぶ。これが、子供達に芽生えた証は、「自分でする」「僕が、私が、する」という心の叫びである。
11-5-4)内発的動機付けと脳部位
内発的動機づけとその変動には、前頭前野外側部と腹内側部そして線条体(側坐核)が重要な役割を果たしている、という。
注)自分自身への主観的な価値評価とそれに基づく意思決定とが、前頭前野腹内側で行われる。
注)前頭前野内で、後ろから前に行くにつれて情報処理がより高度でより抽象性(物質から精神へ)が高くなる。
前頭葉(知的好奇心)→線条体(側坐核が行動を駆動)→視床(フィードバック情報)→前頭葉(更なる好奇心)という連絡ループを通じて、予想より嬉しい結果を引き起こす行動を、脳はますます効率的に起こすようになり、期待外れな結果を引き起こす行動を脳は起こさなくなる。これが、やる気の出る行動と出ない行動とが区別されていく脳の仕組みである。失敗よりも成功を高く価値づけている。
だがしかし、前頭前野腹内側部においては、自己決定感が高い場合には、成功だけでなく失敗に対しても、積極(好意)的に価値づけている。というのは、失敗は、次に何をするべきかを教えてくれる、アドバイス(手がかり)でもあるから。