脳の階層構造的発生成長成熟

脳と心(情報)の並行する発達順序

第一章:階層構造、脳の階層性(系統発生) 3-3)大脳辺縁系 大脳辺縁系に属す主要脳部位 3-3-4)帯状回 (その五)

3-3-4-6)帯状回を経由して自分事として体験
知識(知性)として認知するのは、大脳新皮質(特に後部)の機能である。ところが、自分事(気持ちが動く感情体験)として体験するのは、前部帯状回の機能である。例えば、前部帯状回が損傷すると、痛みが何処でどの程度かという(知識としての)認知は正確に理解できるが、痛みの不快感や不快反応(感情体験)が現れない。
例えば、くすぐりで、他人からのくすぐりでは、前部帯状回が活性化するが、自分でくすぐった場合には、前部帯状回は活性化しない。知識としての認知は、大脳新皮質(この場合は頭頂連合野)で生まれるが、感情体感は、帯状回で生まれる。厳密には、帯状回が活性化することで生まれる。
3-3-4-7)内発的動機づけと自分事化
情動を評価判定するのは扁桃体で、扁桃体から判定結果が発せられて視床下部を動かした結果生まれた情動を体験するのは前部帯状回である。
帯状回前部吻側部(認知領域を担う)は、動機付けを形成する。というのは、帯状回前部は、「状況を自分が制御」しているという能動性意識が働いている状態で活性化する。つまり、自分の努力次第で、次は上手く行くかもしれないという状況下で活性化する。これは自分事化である。
自分事化とは、自分を関係者の一人として、自覚認識することである。これが、(自己努力で解決可能だという)内発的動機である。共感する脳部位は、前帯状回と内側前頭前野(8-9-10野)の腹側部(眼窩前頭皮質)である。知識だけではなく、感情、気持ちが揺さぶられないと、動機付けにはならない、共感にはならない、自分事にはならない。対岸の火事では気持ちは動かない。自分の努力次第で、良い結果が生まれる可能性があれば、それが報酬(達成感、充実感、満足感、自尊心など)として機能する。努力してもしなくても報酬が得られるならば、報酬は動機付けにはならない。逆に、努力しても報酬が得られないなら意欲が湧かない。
なお、前部帯状回は、他人が痛みを感じている様子を見るだけでも活性化する。アルコール依存症者がアルコールを見ると、帯状回前部が強く活性化する。動機付け(心が揺さ振られるもの、出来事)が生まれ出た瞬間である。

情動と記憶

情動と記憶

  • 作者:小野武年
  • 発売日: 2014/01/28
  • メディア: 単行本