脳の階層構造的発生成長成熟

脳と心(情報)の並行する発達順序

第三章:情報(知)の発達と階層性 7)心の成長発達 7-2-3)欲求階層説の具体的内容

7-2-3)欲求階層説の具体的内容
(1)生理的欲求(脳幹)
(2)安全の欲求(大脳辺縁系、特に扁桃体)
(3)社会的欲求/所属と愛の欲求(大脳辺縁系)
(4)承認(尊重)の欲求(大脳新皮質、社会的能力)
(5)自己実現の欲求(前頭前野)

7-2-4)欲求階層説の解説
ここからは、五段階に分かれた、各階の欲求の中身を解説して行く。
(1)生理的欲求(脳幹)とは、生きていくために必要不可欠な、飲食、排泄、睡眠などの基本的本能的な欲求である。それを満たさなければ、生命維持ができないようなものを求める段階である。だから、人は生命を維持するためにまずこの欲求を満たそうとする。その欲求の出処は、脳幹(特に視床下部)である。勿論赤ん坊だって同じである。この欲求がなければ生存していない。欲求の出処は、欠乏(感)である。欠乏は不快(感)を生む。不快を解消する気持ち、行動が欲求である。その底辺を担うのが、ホメオスタシス(恒常性維持機能)である。
注)ホメオスタシス(恒常性維持機能)に関わるのは、自律神経系や免疫系、ホルモンを生成する内分泌系である。
(2)安全の欲求とは、危機を回避したい、最低限の暮らしを確保したいといった安心安全な暮らしへの欲求である。脳で安全安心を欲求する出処は、中心に大脳辺縁系扁桃体がある。第一段階(生命維持のための物質的欲求)の不快の解消から不安(心、感情)の解消へと一階層上へと移行する。この段階までは基本的には家庭が主な生活範囲であり、家庭内で欲求が満たされる。赤ん坊は尚更である。
生理的欲求は、基本的には身体内部の恒常性維持が中心であったが、安全の欲求は、心が漠然と外に向かう最初の課題である。
(3)社会的欲求/所属と愛の欲求(大脳辺縁系)とは、家族や社会から受け入れられたい、仲間が欲しいといった所属と愛を求める欲求で、この段階からは精神的社的会繋がりを求める。精神的欲求が始まる。この欲求が満たされないと、不安感と同時に孤独感を抱く。これを表す言葉として「置いてけぼり」がある。この段階では、仲間、集団の中に心地好い居場所を確保することが大きな(否、最大の)関心事となる。
生理的欲求が内向きで、安全の欲求が、心が漠然と外に向かって求める段階で、この社会的欲求段階で、心はかなり明確に社会に向かっている。小学生になれば、通常学校が最大の、最重要な社会として、そこで経験が積まれる。
(4)承認(尊重)の欲求(大脳新皮質)とは、他者から尊敬されたい、認められたいと願う欲求である。自尊心の欲求や、自我の欲求でもある。この欲求が満たされると、自分の「存在価値」に自信を持つが、逆にこの欲求が満たされないと、劣等感、無能力感、無力感に襲われる。
所属と愛の欲求段階(学生時代)では、まだ家庭に対しても社会に対しても依存的、受動的態度であったが、この承認(尊重)の欲求段階(社会人)からは、次第に対等的な、自立的な気持ちが芽生え、更に強くなる。というのは、自分が社会に望むだけではなく、社会からも望まれる存在となるからである。つまり、そこから自分の能力が社会から認められたい、という欲求が生み出される。これは精神が主役に立っていることを意味する。
社会から承認を受けると自尊心が高まり、逆に社会から拒絶されると自尊心が下がる。自分の自尊心が社会に左右される。
だが、遂には、決定的瞬間が訪れる。すなわち、社会からの承認を不要と感じる時点が到来する。それ程に自分への信頼(自信)が確固たるものになる瞬間である。守破離である。
これは、平均的社会の到達度を超えたことを意味する。そうなれば、後は自分を信じるしか道がない。社会への依存を脱した自立の完成である。脳部位で、前頭前野には、外側前頭前野と内側前頭前野とがある。外側部は外からの情報を受け取る外向性を持ち、内側部は内部から情報を受け取る内向性を持つ。
(5)自己実現の欲求(前頭連合野)とは、自分しかない能力(個性)を磨きたい、自分の限界に挑戦したい、自分の可能性に挑戦したいと願う。これは社会からの孤高である。離である。ここからは、未知への挑戦である。
注)詩「道程」by高村光太郎/僕の前に道はない/僕の後ろに道は出来る/ああ、自然よ/父よ/僕を一人立ちにさせた広大な父よ/

マズローの欲求階層説

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完全なる人間 [第2版]:魂のめざすもの

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