脳の階層構造的発生成長成熟

脳と心(情報)の並行する発達順序

第三章:情報(知)の発達と階層性 9)情動、感情、情緒 情動 9-2-1)情動とは

情動
9-2-1)情動とは
情動とは、怒り、恐れ、喜び、悲しみなどなど、比較的急速に引き起こされた一時的で急激な(1)感情と(2)身体的動き、である。つまり、情動とは、感情が直接原因で引き起こされた体(身体内外に向かった)の動き、である。ある感覚刺激に対する心理的評価(怒り、恐れ、喜び、悲しみなど)と、その評価に対応して生じる反射的行動という二つの複合体である。
注)脳の下位の階層程、行動と強く連携している。
情動行動は、扁桃体を中心として、行動面では、例えば、恐怖に関わる情動的感覚情報が入ってくると、扁桃体から、腹側線条体(大脳基底核)の側坐核(行動化基点)に情報が伝わり、そこから恐怖に対応した行動が引き起こされる。この情動の基本原理は、(個人間の)生存競争である。
9-2-2)情動行動の例示
例えば、「切れる」とは、情動であり、衝動的な攻撃行動である。切れさせないためには、怒りという「感情」と、暴力という反射的「行動」とを、切り離させることである。
切れかけたとき、つまり、感情が沸き上がった段階(感情判断)で、留めて、行動に出ないようにする。
その訓練をする。感情が沸き上がるのは自然で構わないけど、それを行動化するのは押し留める、押し留めさせる。このことによって、社会性が高まって行く。脳は使うことによって発達する、否、使うことのみによって発達する。
衝動的な行動を押し留めるのは前頭前野(特に眼窩部)である。勿論、最初は何回も他人に制止される行動(躾)が続くけれども、やがては言葉による制止でも効果が現れ、遂には、本人が、自ら(大脳新皮質前頭前野眼窩部)で自ら(扁桃体)を制止するように成長する。この繰り返しがどうしても必要である。これらが躾である。外からの制止を内面化(内在化)する、させるのが、躾である。
9-2-3)情動と関連する脳部位
これを脳的に見てみると、各種感覚系入力(情報)から大脳辺縁系扁桃体に受信した情動刺激情報は、過去の記憶情報を溜め込んだ扁桃体(判断、決断)からの発信によって、間脳視床下部(反射行動指示)が、主に身体内反応として、立ちすくみ、発汗、心拍数の増加などの恐怖反応(情動表現)を引き起こす。行動面は既に上で述べたので省略する。この段階の情動は、大脳辺縁系が主導権を握っている。
この大脳辺縁系を上から制御するのが大脳新皮質である。
なお、視床下部は、身体内部を戦闘モードに切り替えるが、腹側線条体側坐核が外へ向けた行動化へと差し向ける。
この時、実際に行動化しなかった場合には、ストレスとしてモヤモヤ(主に視床下部による身体内反応)が残る。
注)視床下部は、間脳(脳幹)に位置し、身体内の、内分泌や自律機能の調節を行う総合中枢である。 それ以外にも、体温調節やストレス反応、摂食行動や睡眠覚醒など多様な生理機能をも協調して管理する。
9-2-4)人と動物と情動においての共通性
情とは、青く澄んだ心を意味する。人間くさい知が加わる前の心の状態を示したのであろうか。感情とは周囲の状況(外からの感覚情報)に対する価値判断である。その第一段階での判断は、扁桃体(大脳辺縁系)が行う。だからこの段階での、人間と動物の情動行動には共通性が多々ある。大脳辺縁系起源の情動には、欲望、恐怖、怒り、落ち込み(落胆)、満足、愛などなどがある。もちろん否定的な情動ばかりではない。
注)扁桃体は、外界の状況が、その生物にとって、好ましいか好ましくないかという価値判断をして、それに応じた行動を表出するために、脳内の様々な部位に情報を送り出す中枢でもある。