脳の階層構造的発生成長成熟

脳と心(情報)の並行する発達順序

第二章:脳の発達(個体発生)、二段階の成熟 5)髄鞘化(ミエリン化) (その二)

5-1-3)髄鞘
もう一つの仕組みを脊椎動物が採用した。それは、軸索の髄鞘(ミエリン)化である。それによって無髄(髄鞘化されていない)神経線維よりも、同じ太さならば、五倍から百倍も更には数百倍も伝達速度が速くなる。つまり、髄鞘化の最大の目的は、単位当たりの情報伝達のスピードアップである。つまり、量を取るか速度を取るかである。
この伝導速度は、(1)髄鞘の有無や(2)神経線維の直径の大小、という二つの組み合わせで決まる。同じ直径の有髄線維と無髄線維とでは、有髄線維が速く、同じ種類の(有髄)線維の間では、神経線維の直径の大きい方が伝導速度が速い。
注)神経細胞から伸びた突起や軸索を神経線維という。
5-1-4)髄鞘化の必要性
ということで、何故髄鞘化する必要があるのかと言えば、一つは既に述べたように伝達速度を上げるためである。だが更なる理由として、電流が軸索を流れる時、髄鞘化されていない軸索では電流が漏れ出てしまう。それで髄鞘という被膜で軸索を覆うと、電流は漏れることなく流れる。よって更に伝達速度も速くなる。一石二鳥である。しかも髄鞘化によって軸索を保護する働きもある。一石三鳥である。
なお、軸索を取り巻く髄鞘は白色なので、軸索が集まる層部位を白質とも呼ぶ。
ところで、脊椎動物であっても、全ての神経細胞の軸索が髄鞘化されるわけではなく、例えば、大部分の自律神経では、髄鞘化されない。逆に、速さが要求される運動系、感覚系の神経細胞(体性神経系)は必ず髄鞘化される。
5-1-5)生物種による髄鞘の有無
すでに述べたが、髄鞘は、極大まかに言えば、脊椎動物に存在する。なお、脊椎動物は、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類である。ということで、無脊椎動物の神経線維(軸索)には髄鞘がない。といっても、髄鞘がないことはデメリットばかりではない。髄鞘化によってその分場所を取られてしまう。となれば狭い場所では軸索数を犠牲にしなければならない。要は、数を取るか質を取るかである。

細胞の分子生物学 第6版

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