脳の階層構造的発生成長成熟

脳と心(情報)の並行する発達順序

第三章:情報(知)の発達と階層性 9)情動、感情、情緒 感情

感情
9-3-1)無意識的感情と意識的感情
辞典では、生理学的には、感情には、身体感覚に関連した無意識な感情と、意識的な感情とに分類されていた。
(1)無意識感情は、扁桃体視床下部、脳幹に加えて、自律神経系、内分泌系、骨格筋などの末梢系が関与する。これは情動である。
(2)意識的感情は、帯状回前頭葉が関与している。私は、意識的感情を、知性の含み具合で、狭義の感情と情緒に二分した。その理由は、狭義の感情では、まだ行動化の可能性が色濃く残されているが、情緒では、感情に浸っているだけに終わるからである。
9-3-2)感情の社会化
情動(無意識感情)を再度述べると、大脳辺縁系扁桃体(感覚情報の受信と感情の発信)と視床下部(身体内反応指令の発信)と腹側線条体側坐核(外部へ向けての行動化)が主導権を握る感情である。
それに対して、動物的な本能行動(情動)を上位からモニターして、感覚情報、過去の記憶、周りの状況と、より広い視野から照合するのが、大脳新皮質(前頭葉前頭前野)主体の狭義の感情である。
狭義の感情は、情動(段階での判断)よりはるかに広く深い主観的経験である。というのは、社会生活、社会経験を積む中で、「人間関係」という広場で生まれ育っていく感情が主体だからだ。例えば、嫉妬などは、情動というよりも(自我が芽生えて以降の)感情である。嫉妬などは、社会生活を営む類人猿辺りでも見られる現象である。
9-3-3)感情とコンプレックス
情報は、階層が上がるほどに、絡まり合う要素が多くなる。その感情を深く思い致す(分析する)ことによって、自分の心の中(様々な経験がからみついたコンプレックス)を知ることができる。心理療法はそれを狙っている。心理療法は、心の腑分けである。情動の所で述べたように、無意識的に結合したものを意識的に切り離すことで、自分の心が見えて来る。心を降りて行くとは、情報の源流(純粋経験)を求めて遡って行くことである。
9-3-4)感情の知性化
社会性を高めるためには、自分を引き揚げるためには、情動の時のように感情をぶつける、強く表出するのではなく、知性(大脳新皮質)の方に委ねる、権限委譲することである。それに対して、情動は、勝つか負けるかの関係(生存競争、競争原理)に持ち込むことを意味する。
より良き社会生活を意識するならば、感情を知性的に処理するべきである。感情の知性化である。感情が沸き上がった理由を言葉で説明する。というよりも、狭義の感情自体が、既に知的側面を含んでいる。自分の感情を深く理解したら答が見えて来る。現代社会は、暴力(極端には否定的側面)を否定する文化を持つ。そこでは怒りの感情を抑制することは良いことである。現在では、上司による部下への怒りの感情は、パワハラとして、強く非難を受ける。
9-3-5)感情の知性化の方法
感情を知性化する方法としては、心理療法、瞑想、座禅、睡眠(特にレム睡眠、夢)などがある。これらに共通する事柄は、コンプレックス(感情のまとわり付いた知)からの知の解放である。脳的に言えば、大脳辺縁系(扁桃体)主体の知と行動から、大脳新皮質主導の知と行動への移行である。
注)「大脳新皮質主導の知」については、次の節「10)知性、思考、意識、言語」で、詳しく解説する。
9-3-6)感情の抑制のマイナス面
だが反面、例えば、怒りの感情を表出することで、交感神経が鎮まり、身体内に放出されたアドレナリンが、行動という形で消費されることによって、心は鎮まる。 
しかるに、感情表出をしないことで、ストレスが蓄積され、様々な病気を誘発させがちになる。あるいは、蓄積から溢れ出て爆発という形で切れるというような感情の爆発が引き起こされる。しかし、これは情動表出を無理矢理強制的に押さえ付けているからでもある。根本的解決は、ストレスの発出先である視床下部を刺激しない態度を身につけることである。それには、視床下部に指令を出す扁桃体を働かせないことである。
もしストレスが溜まるならば、相手にぶつけるのではなく、運動をする、カラオケで歌う、掃除をする、ハイキングに行く、などなど、他人に、溜まったストレスをぶつけない方法で、発散させるべきである。
9-3-7)情動と感情
あらためてまとめれば、感情(情動と感情と情緒の全てを含めて)とは、ものごとや対象に対して抱く様々な気持ちのことである。具体的には、喜び、悲しみ、怒り、諦め、驚き、嫌悪、恐怖などなどがある。それらの感情を最終判断としてかなり突発的行動を起こすのが、情動である。その感情判断を最終判断とはしないで、自我(社会性)の知性を加味した上で最終判断を下すのが、狭義の感情である。感情の中味は、どのような知性をどれだけ含ませるかによって、感情の種類が決まって来る。基本感情の調合と更にそこへ知性という調味料の混ぜる量次第で、感情の中身が決まる。