脳の階層構造的発生成長成熟

脳と心(情報)の並行する発達順序

第三章:情報(知)の発達と階層性 11)精神、性格、意志、注意、理性 知の階段

11)精神、性格、意志、注意、理性

知の階段
11-0)この本全体のテーマ(主題)の一つが、階層構造である。そして第三章のテーマが、情報(知)の発達と階層性である。人間においては、脳内の情報(知)の発達と、心の成長発達とは、並行しているというか、脳内の情報(知)の発達=心の成長発達、ともいえる。ということで、ここで心の成長発達についてまとめてみたい。
まず赤ん坊が生まれて、始めにしなければならないのは、ほとんど空っぽの脳(大脳新皮質)に、経験を通じて、感覚器官を通して、感覚情報をどんどんと流入させることである。
つまり、知の第一階層は、感覚情報で構成される。この知の第一階層は、脳部位としては、脳幹の視床が最高決定中枢である。この階層での発信方式は、反射である。第一階層は感覚情報を受信して大脳新皮質に送り届けることが大きな機能である。この段階では、大脳新皮質は単なる感覚情報の初歩的処理工場に過ぎない。
次の第二階層は、感覚情報を元にした発信が大きな機能である、つまり、感情の階層である。実に様々な感覚情報が身体内外から感覚階層(第一階層)に、刻々と流入して来る。それを元に、個人として統一した行動を取らねばならない。それを行うのが、第二階層である、自我を拠点とした感情階層である。この階層を取り仕切る脳部位は、大脳辺縁系扁桃体である。この段階に成って第二階層である扁桃体が最高決定中枢として機能する。
だが、扁桃体は、競争原理に立つ個人にとっての最適な判断を下すが、社会生活を営む年齢にあっては、個人優先だけでは、争いが絶えない。
だから、次に第三階層として、知性階層が積み上げられた。この第三階層は、大脳新皮質の後部(後頭葉、側頭葉、頭頂葉)が責任部位である。そこでは、視床などから送られた感覚情報が、高度に処理されて知性に生まれ変わる。第一階層が主に生の感覚情報を扱うのに対して、第三階層は、それを高度処理して知性化する。大脳新皮質後部脳部位は、個別的能力を担う。例えば、言語理解とか、計算能力とか、絵画作成とか、作曲とか。これは、前頭前野が障害されていても可能である。この段階では、知性的には、つまり個人の能力は素晴らしくとも、社会人としては疑問符が付く。
最後の第四階層を、このセクション「11)精神、性格、意志、注意、理性」で取り扱う。私は、第四階層を精神(理性)と名付けたい。第二階層が、感覚情報を元に、自我を拠点として判断し、行動化する機能であった。様々な感覚を一つにまとめ上げるのが、あるいは優先順位から選び取った結果が、感情であった。だがしかし、感情は自分の立場からの判断であった。命の取り合いをする動物段階では当然の判断機能だろう。
だが、それを超越したはずの人間界にあって、社会性を高めるためには、また知性が有力な生活手段になった今では、自分本位の感情のまとわり付いた知性は、感情から解放しなければならない。感情から解放された知性は、冷静である。だがしかし、今度は、感情が持っていた無意識的行動化エネルギーを、知性はなくしてしまう、という代償を支払った。再度エネルギーを注入したければならない。
注)怒りという情動から行動に移すには、内的エネルギー源である視床下部が必要である。というのは、視床下部は、身体というエンジンを吹かす働きがある。また、知性を生み出す大脳新皮質は、怒り反応へは関与せず、逆に視床下部を抑制して怒りを鎮めさせる立場にある。
この第四階層は、出来るだけ幅広い分野からの情報を集めて、それらを統合して、一つの結論を下して、行動化する機能だと定義したい。精神、理性は、個人性をはるかに超え出ている。しかも、精神も理性も、統合してまとめる働きを持つ。
なお、ユングは、第四階層に直観を掲げた。だが、私は直観ではなく精神とした。直観は、ボトムアップ式(無意識的)に上がって来る判断機能である。だが、精神は、判断機能であると同時に実行機能をも併せ持つ。だが、その行動化には、下位階層の協力が必要不可欠である。
この第四階層は、前頭前野が主導している。前頭前野は、感覚情報を受け取り、感情を受け取り、知性を受け取り、内面から上がって来る欲求を、外界状況を考慮しつつ、優先順位を定めながら、選択して、企画する機能を持つ。