脳の階層構造的発生成長成熟

脳と心(情報)の並行する発達順序

第三章:情報(知)の発達と階層性 9)情動、感情、情緒 9-4)情緒とは

9-4)情緒とは
情緒を、私は上で定義したが、改めて述べ直すと、もっぱら積み重ねてきた知性や経験に強く裏打ちされた気持ち(感情)であると。例えば、感動、尊敬、義憤、畏敬、畏怖などなど。狭義の感情も、部分的には、動物、特に社会生活を営む猿や類人猿とも共通する。だけども、情緒という段階に入ると、とても人間的で、というよりも、人間でしか感じ得ない、様々な社会経験を通過して来た上での感情である。
例えば、雄大な風景に接したときに沸き上がる自然な驚き(畏怖)は、豊かな経験を必要とする。幼い子供には決して見えない光景である。尊敬も、自分で様々な辛苦をなめる経験を積んで初めて持ち得る気持ちである。勿論、子供でも尊敬心は持ち得るが、それは多分に意味を知っているレベルだろうと感じる。相手が持つ高い人格に心打たれて自然に沸き上がる気持ちではないだろう。
また、情緒は、簡単な言葉を発するだけとか、表情を浮かべるだけとかに終わりがちである。ただ単に心が感動で震える経験であり、ほぼ心の中だけで完結する感情である。

感情表出、特に表情について
9-5-1)感情の発信
脳は、情報の受信と発信を受け持つ。感情を表出する方法として、表情、声、身振り、態度などによる発信もある。
例えば、人間では、ヘビなどの視覚情報(感覚情報)は、扁桃体に入り、そこで価値評価(怖い、危ない)としての感情表出(叫び声)と、不快情動(飛び退く)を表出する。情動表出は、視床下部(身体内へ)と脳幹(身体外へ)が担っている。それを追っかけるように側頭葉(記憶情報との照合)を介して意味認知(ヘビだ!)が行われる。
9-5-2)表情の読み取り
右脳(右脳側頭葉)は、表情や身振りの意味を読み取る。特に、右脳の前頭葉は、表情や声の抑揚から相手の感情を読み取る。
ところで、右脳は、アナログ(切れ目が不明な連続した量)の受発信を受け持つ。それに対して、左脳はデジタル(連続的な量を、段階的に区切って表した数)を担当する。
注)音楽は本来アナログ(波)であるが、デジタル変換すると、ぶつ切りの音の飛び石状(数、点)になる。だから、テレビやラジオ放送は、アナログをデジタル変換して、それを再度アナログに近づけるというややこしい作業が入る。脳も、実は同じことをしている。
9-5-3)表情の万国共通性
表情は、特に基本的な表情は、人類にとって遺伝的で生得的(生まれつき)なので、つまり、万国共通だから、外国人の表情も理解できる。文化的背景に関係なく、表情と感情との関係は普遍性を持つ。
例えば、生まれつき視覚と聴覚に障害を持つ人が表出する基本的な表情は、健常者と共通である。つまり、知識として外から取り込んだ模倣ではない、ということである。それは、遺伝情報として、脳に根拠を持つという意味である。
別の例を挙げると、まだ母乳もミルクも与えられたことのない生後数時間の新生児にも、味覚や嗅覚に直接一対一で対応した表情がある。例えば、甘い味覚刺激を与えられると微笑み、苦い刺激や塩辛い刺激に対しては顔をゆがめ、酸味に対しては口をすぼめるような表情を見せる。これは模倣ではあり得ない。
また、私達は、高等な哺乳動物(犬、猫、猿など)の顔での感情表出を読み取ることができる。勿論、表情を読み取る脳部位が発達してから機能するのだが。
9-5-4)表情の読み取る脳部位
表情の読み取り(認知)に関わる脳部位は、
顔表情の情動を知的認識する(1)側頭葉、
顔表情の情動を判断する(2)扁桃体
表情の観察と模倣と推測と共感の(3)ミラーニューロン(前頭葉)、などである。それらが連携して、つまり、神経回路網を形成して成し遂げられる。