脳の階層構造的発生成長成熟

脳と心(情報)の並行する発達順序

第三章:情報(知)の発達と階層性 11)精神、性格、意志、注意、理性 意志と願望

意志と願望
11-6-1)意志とは
意志とは、自分の心を、自覚的に、能動的に、制御しながら一定方向へ向け続ける心の働きである。長期的継続的トップダウン注意は志向性を持った意志と言える。つまり、意志とは、志向性を持った継続的注意である。
前頭前野は、意識的に、随意に即ち、トップダウン的に取捨選択出来る脳部位である。つまり、前頭前野が意志の出処だと感じる。時々にボトムアップして来るあらゆるものを抑制する機能を持ち、トップダウン注意を目的と定めた方向に向け続けることが意志である。それを支えるのが、帯状回である。
11-6-2)願望と期待
願望や期待は、実現を望む(計画を生み出す前頭前野)段階に留まるのだが、意志(積極性を生み出す帯状回前部と連動して)は自己の行動によって実現を目指す。意志が強いとか弱いとかの違いは、「一定方向へ向け続ける」という選択をし続けるかどうかである。前頭葉は、企画する前頭前野と実行に移す運動野で構成されている。願望は、前頭前野だけを働かせるが、意志は、前頭前野と運動野が強く連携して突き進む。
11-6-3)意欲の出所
しかし、運動野だけでは突き進み続ける強さは生まれない。行動の開始、つまり、はじめの一歩を踏み出すやる気の脳内は、運動制御や報酬を計算する大脳基底核(線条体ドパミン神経)がやはり重要である。大脳基底核は、報酬(精神的喜びも勿論含まれる)を求めて行動に乗り出すスイッチ係である。
やる気や意欲の中核をなす線条体(知性を行動化する中継地)は、脳の奥に位置する大脳基底核の一部で、運動の開始、持続、制御に関わっている。線条体が活性化することによって意欲的に行動ができる。感情を行動化する起爆剤視床下部であったが、精神を行動化する起爆剤は、大脳基底核系である。
11-6-4)(物質的、精神的)報酬を目指して行動化
では、何を最優先とする報酬と見なすかである。目標の達成を繰り返し経験して物質的精神的報酬を得られた際の喜びや快感の記憶を持っていれば、その記憶を思い浮かべることだけで、頑張ればこれが得られると意識すれば、やる気が上がる。
脳内では、目標を持ち、その目標達成時に得られる報酬を過去の経験から意識したとき、つまり報酬を意識しただけでドーパミンが分泌される。
具体的には、脳内の側坐核という領域が刺激されるとドーパミンが放出される。報酬が喜びや快感などの情動的なものであっても、行動を選択するに際して、ドーパミン神経系は、報酬についての判断材料を提供する機能(中心的役割を担っているのは中脳の腹側被蓋野線条体側坐核)の役割を果たす。
つまり、選択された行動が本人にとって有利であると推測した場合には、それが何であろうとも、ドーパミン神経系が発信して、その行動をプラス評価して扁桃体に記憶させる。
だがしかし、ドーパミンは、現状維持を嫌うので、報酬の階層を引き上げて行くことが不可欠である。側坐核は、予期せぬ報酬(「上手く行ったら特別手当出すぞ!」)が与えられた時に、予期された報酬(「またこれか!」)が与られた時よりも高い活性を示す。
逆から言えば、ドーパミン(快感)を浴びることが目的に成ってしまうと、報酬を引き上げ続けなければ、ドーパミンは止まってしまう。
注)前頭前野の腹側部の、より後ろの部位は食べ物、飲み物などの具体的な報酬処理に関して、より前の部位はお金や名声などのより抽象性の高い報酬処理に関して活性化する。
注)前頭前野腹内側部は、短期的視点からではなく、長期的視点から見ての報酬(良い結果)に注目する。