脳の階層構造的発生成長成熟

脳と心(情報)の並行する発達順序

第三章:情報(知)の発達と階層性 10)知性、言語、思考、意識 言語 10-3-1)言語とは

言語
10-3-1)言語とは
言語の種類としては、聴覚的な音声、視覚的な文字、だけではなく、視覚的な身振り言語、触覚的な点字などがある。これらの感覚的なものから、具体性(聴覚性、視覚性、触覚性)を捨て去って抽象化したものが、言語一般(感覚性を伴う言語よりも更に一段上に位置する)である。
10-3-2)言語の起源
言語の起源は、例えば、幼児に見られるような、いまだ言語とはなり得ていない発声とリズム(繰り返し)を伴う、泣く笑う怒るなどの「身体表現」(脳幹発信)だろう。そしてそれらは、大脳新皮質(言語の受発信)の発達によって、いずれは「言語」に道を譲る。その前(途中)に下位階層(脳幹)の機能(言語未満の発声とリズム)は、上位階層の機能(前頭葉言語機能)が徐々に伴うようになる。かくて幼児は、泣く笑う怒る遊ぶなどの身体表現(表情と行動)と言語機能(意思表示)とが一体になって表出される。ところが、大人になると、言語機能が主導権を行使して、身体表現(脳幹主体)は寂しくも置き去りにされる。かくて大人は幼児を羨む。大人は、自分達がなくしてしまった、言語未満で表現する幼児や動物に癒し(心を緊張状態から解放し、リラックスさせる状態)を感じる。
10-3-3)意思の伝達手段
言語は、人の意思、思想、感情などの情報を表現したり伝達する手段である。心の中にあって他人から知り得ない意思、思想、感情などを、自由自在に取り出すためのタグである。または、ネットワーク(心)の海から目的のものを引き出す検索語(記号)である。SNS上で、必要なものを引き出すハッシュタグ(#)である。
注)タグ付けは任意なので、国々、民族毎に、自由に貼付けられる。
10-3-4)言葉と意味の合体
例えば、ある人が悲しみに暮れていたとする。他人は、その態度や表情から悲しんでいることは理解できる。犬もそれを理解できる。それは、態度や表情も言語と同じく意思表示だからである。これは動物にも当然存在する。
私の心の海で、今現在私の心を捉えている、あるいは覆っている事態は、他人へと直接私の心をそのまま見せることはできない。心の中で感じている主観的感情は身振りや表情や発声で大まかに見せることはできるが、詳細に渡って示すには、やはり言語を必要とする。それを間接的ではあるが、最も上手く可能にするのが言語である。
ではあるが、言語は、元々は空っぽの入れ物である。例えば、日本語を全く知らない外国人に、「悲しい」と言っても何も理解できない。外国人にとって「悲しい」と言う言葉(音声)には何も入っていないからである。そこで、泣く真似をしたり、悲しい表情を見せたりして、その言葉に情報を入れてやると、言葉の意味が理解できる。ここで始めて言葉と意味とが合体する。理解するとは、感覚したものの背後に隠れている意味を知ることである。見える構造の背後にある機能を知ることである。
10-3-5)赤ん坊と言語
新生児は、口や喉が構造的には完成しているとしても、それを操作する神経回路形成がまだ発達していない(未熟な)ので、声を発する機能が働かない。構造が完成していても神経細胞髄鞘化が未形成である。更には、ソフトウェア(神経回路)は経験を積むことによってのみ作成され完成される。
世界には、数多くの言語が存在するが、新生児は、育つ環境に関わりなく、あらゆる音素(最小の音声単位)の識別を行う能力を遺伝的に生まれ持っている。つまり、日本人の赤ん坊をフランスで育てると、フランス語を母国語として身につける。
更に、言語に関しては、左右半球(右脳と左脳)の等価性(優位性がないこと)が5歳頃の臨界期まで続く。確率的には、言語機能は左脳が優位であるが、それが機能するのが5歳以降である、ということである。